「あっちゃー…しまったなあ。」

黒板に貼り出された赤ペンで書かれた"放課後居残り補習"の文字の下には五教科それぞれが書いてあって、見事に"数学"の下には私のフルネームが書かれていた。最悪。


「あーあ、ドンマイ。」

「最悪だよこんなの。やっぱり悪かったとは思ってたんだけど。」


はどの教科にも名前は載っていなかった。まあ、載らないのが普通だし、私だって普段は載るわけない。



・・・んだけど、今回の数学のテスト範囲が特に苦手なところで、やっぱりダメだった。私の顔が余程面白かったのか、がまだケラケラとお腹を抱えて笑ってる。


「他人事だからって・・・!のばか!」

「だってがこの世の終わりみたいな顔するから!」


ふとプリントの下の名前を辿った。英語の下に書かれたよく見る名前には私もも笑ってしまった。後ろに立った彼の溜息が見事なまでに彼の気持ちを表しているみたいだった。


「おめでとう赤也・・!殿堂入りしたね・・!」

「うっせ!うっせ!」

「何でー!そんなこと言わなくてもいいでしょー。同じ補習仲間なのに!」

「お前は数学で俺は英語!俺は数学は載ってねーもん。」

ほらな、と数学の欄に指を差して言う。


「でも私は殿堂入りじゃないもん。」

「うっせー!」


大股でずんずん歩いて席に戻る赤也を見て、放課後がちょっとだけ待ち遠しくなったような、そんな気がした。



















「「・・・これは」」



積み上げられたプリントの山にも、吃驚した。けれども、まさか、たった2人だったとは思ってなかった。みんなやっぱり出来てたんだなあ。



「ふぅ…。」

「あー、もう無理だ俺もう死んだ。」
赤也が椅子に正座して、机に突っ伏した。

「早過ぎ、まだ5分も経ってないよ。」

「この量は無理だ。一時間で終われる訳がない。もう部長たちに何されるかわかんねーよ・・・。」
喚く赤也を横目に、サラサラとシャーペンを進めた。

「あのさ。」

「何。」

「お、お前好きなやつとか、って、いんの。」

「なな何急に!プリントと全然関係ないし。」
机に顎を乗せて、目だけ私を見た赤也が鉛筆を転がしながら言った。動いていた私のシャーペンが止まって、教室に鉛筆の転がる音だけが響いた。

「なあ、いんの?いねーの?」

「・・まあ、気になる人はいる、といいますか。」

改めて口に出すと、凄く恥ずかしい。顔赤くなってるかもしれない。そっと自分の頬に触れてみると、やっぱり熱かった。身体の中から沸騰しそうな、そんな感じ。名前呼び出来るのに、こんなことが出来ないのだから、その恥ずかしさもあるかもしれない。


「・・やっぱいんのか。で、さ。誰?」

「誰、とか、聞いちゃう?」

「気になんだから聞くだろ。」

「そういう赤也は、どうなの?」

赤也の背中がびくっと震えて、起き上がった。鉛筆の線が流れる音と、転がる音が交互に流れる。もしかして、と思って赤也から鉛筆を取り上げるとやっぱり鉛筆の先には数字が書かれていた。なんとも赤也らしい。ぷっと笑って数学のプリントを右から左へと動かしながら、震えるシャーペンを握る右手を誤魔化した。あー、聞いちゃった私。バカだ。




「まあ、居るけど、さ。」

「いる、よね。まあ。」


「「で、誰。」」

お互いの顔を見やって、直ぐに逸らした。赤也の顔が驚くほどに真っ赤だったのは、私が見間違えてなかったら。
これって、まさか、もしか、して?


「「それって、俺(私)の可能性は?」」


またお互いの顔を見たけど、今度は目を逸らさなかった。


「可能性アリ、でいいの?」

「あー、何だこれ恥ずかしい。


 けど、アリ、でいい。」



微笑いあった途端に、恥ずかしくなってお互い机に突っ伏した。机の上の英語のプリントが床に散らばって慌てて拾う背中に、笑いながら消しゴムを飛ばした。












2012.03.18
一周年リクエスト/星巳さんに捧げます。いつもtwitterで構ってくれてありがとう!(・ω・)