きゃあきゃあと騒ぐ外野を適当に丸井たちに任せて、さっさと教室を出る。
はきっと見つかるだろう、という妙な自信だけをもって校舎を出た。






やっぱり、いた。 花壇の前。




「見つけた。」

「あ、幸村だ。」

は薄情だな。卒業式だっていうのに俺と写真も撮ってくれないなんて。」

「私は幸村の彼女じゃないんだからわざわざ必要ないよ。」

「俺が撮りたいんだよね。」 がふふ、と笑った。

「いいよ、撮ろう。」


ぽつぽつ歩く人たちの中から、優しそうな人に声を掛けカメラを頼んだ。
たった二枚の写真が、俺との最後になるのが嫌だった。











夏、は立海の高等部へは進まないと言った。


「ここは、私には合わないんだよ。」 それが理由だと言った。


人に嫌われていた訳ではないし、むしろ好かれていた。
勉強が出来て、運動神経も良いにも関わらず、どこか抜けたような性格に、皆が懐いた。
はテニス部のマネージャーではなかった。
俺はなってほしかったし、何度も薦めたけれど彼女は決して首を縦には振らなかった。いつだって言っていた。
この場所に馴れるつもりなんてないの、と。


は俺が自分の事を好きだと分かっていたと思う。
けれど俺はが俺を好きじゃないことを分かっていた。
は俺に期待させようとしなかった。

だからこそ、俺は彼女を振り向かせたかった。
きっとも計算外だったと思ってる。








「ありがとうございました。」
カメラを受け取って礼を述べる。いえ、と短く答えたその人はまたぽつりとした中に入った。

パシャ。
隣を見るとデジカメを構えたが俺を撮っていた。ふふ、と微笑む。


「ここは私には広すぎる場所だったよ。」

「知ってるよ。」

「人もいっぱい居たよ。」

「マンモス校だからね。」

「でもここの人は皆、私には退屈だったんだ。」

「知ってる。」

はカメラを操作してさっき撮った写真の俺を見ていた。
ピ、という音がして画面にゴミ箱が大きく表示されるとはためらいもなく画面をスライドして俺を、俺の写真を棄てた。

「幸村も退屈だった。」

「知ってる。だから振り向いてくれなかったよね。」
の手首にストラップがついて、その先にはカメラがぶら下がっている。


「それは違うよ。」

思わぬ返事に驚いてを見た。


「幸村は好きだったよ。もっとも、幸村は私が嫌いだと思ってたみたいだけどね?」

「それは好きの意味が違うだろう。」

「違わない。」 違わないよ、二度繰り返した。


「幸村は分かってなかった。」

「分からないよ。」

「私は幸村が好きだった。テニスしてるときも、校庭でお花に水をあげてるときも。幸村と話すときだってどきどきしてたし、すごく楽しかったのに。 でも幸村は私には退屈な人になっちゃったんだもん。」

「俺の、何が退屈だった?」

「全部だよ。 『私』を何も理解してくれなかった。」


俺がを理解してない?のことは知ってる。分かってるのに。誰よりも知ってるのに。の退屈って何なんだ?
ぐちゃぐちゃになった俺の頭を冷やすものなんて今はなかった。 が続ける。

「やっぱり、分からないよね。」

「何言ってるの、はっきり言ってくれなきゃ分からないよ。純粋に好きじゃ駄目?には物足りない?それともちゃんとした理由がないと駄目かな?」


「そういう問題じゃないよ。」 が目を伏せた。







「さよなら。」

ぎゅう、とが俺を抱きしめた。待って、さよならなんて言わないで。
また会えるだろ、またねって笑ってよ。
言いたいことは山ほど出てくるのに口が動かなかった。が後ろを向いて歩き出す。
追いかけられもしない。行くな。叫ぼうとしたときに頬を伝わる涙に気が付いた。



俺にはもう、その涙を止める術なんてなかった。