「長太郎くん?長太郎?それとも鳳?」

「俺は名前の方が嬉しいよ。」

「うーん、じゃあ鳳くんのままでいこう。」

「それって今までの話が全く意味なかったってことだよね。」



がくすくす笑う。つられて俺も笑った。


元々の話の根源は「付き合うってなったんだから多少の変化をもたせてみよう。」 っていうの言葉だった。
まずは名前からと考えるために、少し寒い公園のベンチに並んで座ったのがほんの数十分前のこと。




風が吹いたり止んだりを繰り返す。それに伴って、も微妙に肩を震わせた。

「寒い?」

「少しだけ。でも大丈夫だよ!」へへ、と続けて笑う。



「そっか。」


震えている姿を目にして、全く納得できるわけがないけれど、
そういっておかなければ彼女が話してくれないからあたかも納得したという雰囲気を気持ちで出しておく。



さっきとは対照的に何も話さず、ただ時間だけが過ぎる。
やっぱり冷えて赤くなったの手が少し震えていた。





春が始まろうとしているのに。
春なら、の手は震えなくて済むのに。





そっと、の手に自分の右手を重ねる。
体温が直に伝わってきて、くすぐったい気持ちになる。


「ねえ、。」

「なに?」

「俺、春も好きだよ。」スカイブルーの雲一つない空を見上げる。

「私も好き、暖かいしね。」



がふふっと笑う。重ねただけだった手を握る。
も握り返してくれたような気がした。
 でもさ、と続ける。

「でも、冬のほうが好きかな。」

どうして、とは聞かない。そんなところを見ると、理由は聞かずとも分かっているみたいだ。
がゆっくり、俺の肩にもたれかかって目を瞑る。


「冬だと、の手は冷たいし、鼻も赤くなる。」

「そうだね、」
の方へ目をやると、目を閉じてまどろんでいた。


「そのときは俺が暖めてあげられるかな、って。」




「・・・・・うん。」

本当に小さな声で答えたけど、それでも俺には充分すぎる位だった。






冬は終わろうとしているけれど、
 もう少しだけ、待ってください。






2011,3,30