一昨日泣いてる先輩を見つけた。 先輩。俺がずっと好きやった人。 俺は気付いたら声をかけとった。 昨日、廊下でたまたま先輩を見つけた。この人は謙也さんが好き なんやと一目で分かった。それでも先輩は俺に会いに来ていた。 隣にいてほしいんやと分かるのに、俺はその場を離れた。 そうせな、という人間は忍足謙也を忘れん。俺が優しく慰めたら 先輩はまた謙也さんを好きになる。だから俺は先輩を慰めたりなんかせえへん。 何よりも俺の為に。今日も俺は先輩を探して屋上に来ている。 フェンスにもたれてしゃがんだ。先輩はおらん。ため息をついて目を閉じた。 ガチャという音に片目を開く。 財前くん、と俺を呼ぶ声がして目を開く。先輩のやない声。 同じクラスの女子。名前なんか覚えてなかった。 「あの、先生が探してはったよ」 「…わざわざ探して来たん」 「財前くんが屋上に行くん見えたから、」 「聞いてないことにしといて」 「でも、」 「用事あんねん。」嘘や。用事なんかなんもない。 せやけど、もしかしたら先輩が来るかもしれへんという 僅かな希望を俺は捨てられへんかった。これは本当。 そっか、邪魔して、ごめんなさいと言って走って行ったあの人には 目もくれず、また目を閉じた。 再びガチャンという音がして扉に目を向けた。 「私、もう吹っ切ったよ。大丈夫だから」 先輩が一歩一歩近づく。俺の前に立った。 「俺には関係ない」 「でも、財前くん昨日、怒ってたから」 「怒ってへん。呆れただけや」 「呆れた理由は」立ち上がって先輩に向き合う。 「先輩が何で俺に会いに来るか分かったから」 「何で」 「自分のことやろ。分からへんの?」 「わかってるよ」 「先輩のそういうとこ嫌い」一歩一歩先輩に近寄る。 「一昨日会ったばっかりの人に嫌われたくない」 「一昨日会ったばっかの奴を頼ってるんは誰や」強い声が響く。 先輩が目を反らした。一歩一歩俺から退く。 「先輩のアホ。」 「何で財前くんにそんなの言われなきゃいけないの」 「先輩が悪い」 「ひどい。私、帰る」 「行けばええやん、謙也さんのとこ」 謙也さん、という単語に先輩がぴくと反応して俺から 反らした顔に驚きの色を見せた。 「何で知ってるの、謙也のこと」 ソプラノより少しだけ低い声が冷たく広がる。 俺を見る目に蒼空が反射して、俺の影をつくっている。 「見たらわかるわ」 「そ、う。」 「謙也さんは先輩を受け止められるほど広い人やない。」 「わかってるよそんなの」 「じゃあ何で毎日俺に会いに来るん?慰めて欲しいんやろ? 頑張れって、言って欲しいんやろ?大丈夫って言って欲しいんやろ?」 先輩が黙った。 「俺は言わへん。人に背中押されな何も出来んのなんか、おかしい。 俺は先輩の踏み台やない。先輩本間は謙也さんが好きやないんちゃう?」 空気に耐えられへんかった。また吐き捨てて屋上を後にする。 先輩のドアホ。悪態をついて階段を駆け降りた。 2011.9.5 |