財前くんと喧嘩してしまった。私は財前くんに何を求めていたのだろう。 私は彼を何だと思っていたのだろう。踏み台? 私はそんなこと思わなかった。でも彼は踏み台だと思った。 私は財前くんを踏み台にしようとしていたのかな。謙也を諦める道具? それとも謙也を好きでいるための言葉を欲しかっただけ? 自分の感情が分からなかった。財前くんの言っている事は正しい。 私は彼の優しさに漬け込んだ。昨日の財前くんの言葉が突き刺さって、 頭の中は一杯だった。会って3日しか経っていない相手なのに、 財前くんに嫌われたくないという感情が現れる。謝らなくてはいけない。 けれど私は何も理解していない。 そのまま謝ったところでまた財前くんを傷つける。 四時限目の終わりを告げるチャイムの音で屋上に走りたかったが 足が動かなかった。 「なあ、。」 「え、ああ、何蔵?」 「昼、一緒に食べへん?」 「謙也は」 「彼女と」 「そっか」 「屋上行く?」白石の言葉に私は首を横に振った。 「ここでいい」屋上を避けている自分がいた。 財前くんは屋上にいるのだろうか。 私は彼の優しさを踏みにじった。ごめんなさい。 心の中なら言えるのに。 「、俺には話せへんことなん?」蔵が私を見つめる。 駄目だ。財前くんのように蔵の優しさまでもを踏みにじりたくない。 「気にしないで」 「らしくないで」蔵が私の弁当と自分の物を持った。 「外、行こか」 「うん」 「がな、笑ってくれへんのは屋上のせい?それとも謙也?」 「蔵は何でも知ってるんだ」 「は俺を頼ってくれへんの?」 開いた弁当を食べる気など微塵も起こらなかった。 「迷惑になりたくない」 「迷惑は俺が決めることやろ?」心配そうに私を見る蔵が言う。 既に私は蔵に迷惑をかけているんだ。胸の奥が締め付けられる。 目の辺りがじわりと温かくなった。駄目だ。堪えろ。 ぎゅっと目を瞑った。大丈夫。 「大丈夫。」言い聞かせるように呟いた。 「俺がおるから。」白石が微笑んだ。 ありがとう、小さな返事は聞こえたのだろうか。 下駄箱へと急いだ。しゃがみこんでお気に入りのハイカットの スニーカーに履き替えた。立ち上がったとき、あの子が居た。 謙也の、彼女。直ぐに謙也が走ってきて、彼女の右に並んだ。 謙也が横を見たとき、目が合った。 スニーカーの爪先を叩く振りをして誤魔化す。 謙也は私をちらりと見ただけで何も言わずに進み続けた。 胸の奥の何かを押さえつけて謙也とは反対の方向に走る。 校門を出ても、ずっと、ずっと遠くへ。 ねえ、やっと分かったよ財前くん。私は臆病者だ。 君の言葉は私を傷つけないための優しさだったんだ。 ありがとう、そしてごめんなさい。 2011.9.5 |