今日のホームルームの終わりを告げるチャイムが流れて、それぞれが 教室を出て行く。友人が私の名前を呼んで、ばいばいと言う。 何人かにそれを繰り返して、私も帰る準備を終えた。 スクールバッグを肩にかけて教室を出た。 下駄箱から出て、昨日と同じ方向に歩き出した。 「先輩。」 呼び止められて振り向くと財前くんが居た。 心拍数が上がる。謝らなくてはいけない。 財前くんが私の目の前まで来た。謝らなきゃ。 分かっているのに声が出せない。 「先輩。一緒に帰ってええっすか。」 「部活は、」 「今日からテスト前で停止期間やろ」 「あ、うん。」財前くんがちらりとどこかを見た。 いきなり財前くんが私の腕を掴んで走った。訳も分からずに 走りながら後ろを見れば、謙也の後ろ姿が小さく映った。 運動部でもないからすぐに息が上がるのは目に見えていて、立ち止まる。 財前くんもゆっくりペースを落とした。 「あ、のさ。ありがとね。」肩で息をしながら途切れ途切れに言う。 「何がですか。」 「さっき。謙也、居たの分かってたでしょ。」 「別に。」 「ごめんね。」 「何がですか。」 「私、財前くんに頼り過ぎてた。謙也のことから逃げる為に 財前くんを頼ってた。踏み台みたいにしようとしてた。 ごめんね。謝って許してもらえるなんて思ってないけど」 「別にええっすわ。」 「財前くん」 「何やねん。」 「私、謙也が好きだった。でも過去の話だよ。今は謙也のことを 応援してあげられるようになりたい。」 「何で俺にそんなこと言うんすか」 「んー、どうしてかな。財前くんのことを頼ってるから?」 笑いながら言う。ちゃんと笑えてるかな。引きつってるかもしれない。 財前くんの顔が歪んで見えた。 不意に手首を掴んで手を引かれたと同時に財前くんの唇が私のそれに触れた。 「我慢すんなや。泣きたかったら泣けばええって言うてるやんけ。 先輩が忘れられへんなら俺が謙也さんなんか忘れさせたる」 財前くんが辛そうな顔をしていた。 私はただ、彼の隣で目から溢れるものを堪えられずにいた。 また、彼の前では涙など堪えられなかった。 けれど、以前の涙とは違っていた。 2011.9.5 |