テニスコートを見ると見慣れたジャージの色が目に焼き付く。 黄色と緑のそれはうちの学校の特徴をよく表していた。 それでいてよく似合う。 もちろん、窓の向こうにいる彼にも例外なく。 机の上に置かれただけの課題のプリントと一向に進もうとしない シャーペンをトントンと机に叩いた。 数学の先生に渡されたプリント。表を解き終えて、裏に入った辺りで コートの財前くんを見つけた。ボールを打つ音が聞こえる。 握ったラケットを振ってラリーをしていた。 ガットに当たって相手コートへと返ったボールはまた返され、 財前くんのコートに入る。 私は財前くんが好きなのかもしれない。 そう思うと不思議な気分になった。 謙也を想っていた気持ちとはどこか異なるような気がして。 財前くんは少なからず私を好いていてくれるからかもしれない。 携帯を開いてメールボックスを見る。仲のいい友達から届いていた 誘いのメールを全くもってない先約があると断っておいた。 "俺が謙也さんなんか忘れさせたる" 一昨日の事を思い出すと自然と体温が上がる。 人に想われるということはどういうことなんだろう。 人を想うということは、どういうことなんだろう。 白石の声がして、皆が集まっていく。 財前くんも続けていたラリーを止めて歩いていた。 私も頬杖をつくのを止めて、数学のプリントに向き合った。 プリントを先生に渡し、ふらふらと下駄箱から出て帰る。 テニスコートの隣を通ると、それぞれでラリーが再開されていた。 財前くんを探してしまう。見つけたと思った途端、目が合った。 どくん、と心臓が跳ねる。 財前くんも私に気がついたのか、フェンスに近付いた。 フェンス越しに財前くんが私を見つめる。 「先輩、明日空いてます?」 「え、あっと・・・・空いて、ます」 「後でメールするから見といて」 それだけ言うとまたコートへと戻った。 フェンスの前で固まった姿の私を遠山くんが笑った。 「姉ちゃん財前にめっちゃびびってるやん!」 「びびってない!」 「金ちゃん!をいじめんなや」 白石が遠山くんをたしなめる。 少しの間だけかち合った視線に白石が微笑った。 私もそれに応えるように少しだけ手を上げた。 財前くんが気になって目を向けたけれど、 いつもと変わらない無表情をするだけだった。 ひらりとコートに背を向けて歩き出した。 携帯が鳴る。 「明日駅前に11時で」 財前くんから届いたメールを開いた。 多分、これはデートになるのか。 不意に見たショーウインドウに映る笑顔の私は私でないような気がした。 2011.10.1 |