「「ありがとうございましたー!」」



「ほなみんな、また明日なー!」


「謙也、またなー!」



部活の仲間に一言かけて走る。
そのまま校門を飛び出して一気に駆け抜けた。




なにをする、とか、用事があるって訳でもないけど走る。



―――早いほうが何かと得やん。 たぶん。





俺にとっては学校から家までなんて大した距離やと思わへんから
ちょっと走ったらすぐ家に着いた。

さすがスピードスターや。




玄関をあけて靴を脱ぎ捨てた。

・・かったんやけどオカンに怒られそうやからちゃんと揃えた。



「ただいまーっ!!」 でっかい声で叫ぶ。


「聞こえてるわうっさい!おかえりぃ!」 オカンも負けじと叫び返す。


テニスバッグを置こうと階段を部屋のドアノブに手を伸ばす。




・・・・・・・・・・・・・・何かおる?



いっつもおる部屋とは何か違うみたいな。





同じやない「何か」を感じながら、おそるおそるドアを開く。
実際、いつもと何ら変わりはなくて、さっきまでの自分にため息をつき、ドアを閉めた。



「あほやん、俺。何にビビッてんねん。」





「今日は帰ってくるの早かったね、謙也くん!」





――――― え?






そーっと振り返ってみると同い年くらいの女の子が手を振って 二ッコニコしながら立っとった。背中に羽根を付けて。









           Fairy tail ☆ミ









「んなっ!だだだだ誰やねん!何やねん!おおおおおまわりさん!!」


「しーっ。私ね、謙也くんにしか見えないの。」

女の子が口に人差し指を当ててにっこり笑った。
かわいいとか思ってニヤケそうになった瞬間、背中の羽根が目に入った。
薄っぺらそうな、鳥のみたいに頑丈やなくて、どちらかといえば虫。



「やっぱり気になるよね、これ。」


「あたたたたたり前やろこんなんえ、何、コスプレ?コスプレ?」


「・・・こすぷれ?たぶん違うよ。」


呆れたんかわからへんけど、目の前の虫と人間のハーフは自分の髪を
ちょっと掬い取るとくるくるといじりだした。

ダークブラウンの髪が窓から差す弱い光に照らされている。
若干、羽根も輝いて見えた。


「ちがう、とかいわれてもな!ほ、ほら、名前名乗れや自分!誰や!」


小首を傾げたあと、途端に笑顔になってこっちに来た。

反射で後ずさりするけど、後ろはドアやった・・・!



前には羽根つき女子。




逃げ場は・・・・・もう、ない。



そいつはにっこりわらうと両手で俺の手をがっしり握った。











「私は!謙也くんのために生まれた妖精です☆」





そのときの俺の顔なんて、思い出したくないほど間抜けやったと思う。
当たり前やろ。信じられるわけがない。








(1)2011,4,4 (2)2011,4,10 改訂2011.8.12