本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが流れて、急いで教科書を片付ける。


 「そんなに部活行きたいんか?」

 「まあな!今日は財前と小春とユウジら相手に勝負やからな!」

 「あー、そんなこと言うてたな!」

 「白石が忘れたらあかんやろー」

 「ま、HRあるんわすれとる奴に言われたくはないけどな!」

 「忘れとった・・・」


 白石のお陰で恥ずかしいことになるのは防げた。
 ははっ!と白石が爽やかな笑顔で俺を笑った。鼻で。
 俺と白石のやりとりを見ていた周りの数人があわせて笑った。ふっ、て。
 お陰様で俺のメンタルは早くも崩壊しそうな危機を迎えました。










 長いHRが終わって、白石とテニスコートへ急ぐ。案の定、レギュラーの皆はもう部室で着替え始めとった。
 金ちゃんなんかは、既に着替え終わってラケットをブンブン振り回して俺に走ってくるから、怖かった。
 部室に入ると、財前がまったり自分のペースで着替え始めたところやった。


 「2人とも遅かったわねえ〜」

 「話長かってん。困ったもんやわ」  

 「謙也さんも白石部長も遅すぎっすわ。」

 「「言うて財前着替えられてないやん」」

 「小春ぅ〜!今日もラブラブ練習やで〜!何や来たんか謙也。」

 「俺の扱いひどない?!」
 
 「ほな行くでユウく〜ん!」 

 それぞれがにぎやかな部室でとっとと着替えを済ませて、ラケットを片手にぞろぞろと部室を後にする。俺も
 着替えてラケットをテニスバッグがらひっぱり出し、部室を出た瞬間、見覚えのあるようなないような奴の、
 後ろ姿が見えた。一瞬見ただけやったけど、見覚えのある、ダークブラウンの髪。
 まさか、嘘や。そんな訳がない。
 首を左に向けると、俺の悪い予想は当たってしまった。
 しかも、金ちゃんと談笑しとる・・・!金ちゃんが俺を見つけて走ってくる。の手を引いて。



 「あー!謙也来たで!」

 「き、金ちゃんが見えるんか・・!?」

 「謙也くんそれ愚問っていうんだよ。金ちゃん私妖精だって知ってるし。」

 「なー!」

 「何でそこまで知ってるん・・・!そしては何で学校まで来てんねん・・・!」

 「えー、だって、謙也くんのテニス見たかったんだもん」

 「見たかったとかやないやろ・・・!」

 がぶーと頬を膨らませる。金ちゃんがの頬をつついて遊んでいた。
 
 「何で今日は羽根ないん?」金ちゃんが言った。
 そういや、後ろ姿に羽根がない。俺も首を傾げてを見た。

 「いやー、今日は見えないように魔法をかけているのだ」へへーとが笑う。

 「ほな、他の奴らにも見えてるんか?」

 「それは別だよ。もともと妖精ってこころの清らかなこどもにしか見えないんだし。」

 ほっとした。そしたら(悪いけど)心の清らかそうなコドモは金ちゃんだけやから、金ちゃんにしか見えてないな、
 よし。はあ、と後ろを振り返った瞬間、ものすごい視線が俺に向かっていた。
 財前なんか今にもラケット落しそうな勢いで目を見開いてるし、白石は既にラケットが地面に落ちていた。
 珍しく部活に来てた千歳はベンチに座って動かへんし、ラブルス2人は抱きついてこれでもかってほど口空けとる。師範は合掌してやっぱり動かへん。
 レギュラー以外は何も変わらず練習を続けている。

 この状況が表すことはただ一つ。

 レギュラーには、が見えてるっちゅー話で。
 すなわちそれって、心のきよらかなこどもっちゅーことで。



 「け、謙也その子何ね、妖精って、」

 「謙也さん、な、え、その子どうしたんですか」

 「謙也、説明が必要やろ」

 「金太郎さんが仲良う話してる女の子って・・」

 「よ、妖精でも、小春に手出したら死なすど!」

 「はん、て言うんか」

 師範の対応は大人やった。レギュラー全員に詰め寄られて困っている俺を、はくすくす笑って金ちゃんと遊んでいた。 そこ、助けてくれへんかな!



 妖精なんて非科学的なものを信じるわけがないと思ってたら、俺の説明では何もわかってくれへんかった皆やのに、が  隣からした説明には納得して、瞬間で皆の態度が変わった。
 恐るべし、四天宝寺レギュラーの順応性。またひとつ、怖いものが増えたわ。





 「謙也さん、あの子ちょっとかわいい。」


 珍しくちょこちょこ走ってきた財前が、柄にもなく顔を赤くして言った言葉に俺は何とも言えなかった。
 財前のクールさが剥がれてしまうとは。恐るべし、





 ○月×日今日限定の日記(多分、続かんし!)
 今日は、が部活に来た。に対して財前とか白石を筆頭とする他の
 皆の対応が俺より優しかった。
 それに、財前の心が清らかやっていうことも怖かった。












2011.8.12