携帯をおもむろに開くと、画面に見慣れたマークが表示されていた。 "着信一件" 決定ボタンを押すと着信元の名前が表示された。切原赤也。 いつ振りかも分からないような、そんな名前だった。 中高の同級生。 中学の頃はそこそこ話したけれど、高校に入ってからは 全く関わりを持たなくなった。 彼の人気が中学の時を上回るものになったことと、 高校生になって一度もクラスが同じにならなかったことが原因だった。 私は切原赤也を何と呼んでいたのだろう。 そんなことも分からなくなる程に長く私は彼と関わっていなかった。 そんな相手がどうして電話などするのか分からなかったけど、 私は発信ボタンを押した。二回のコールの後、繋がった音がした。 「もしもし。ですけど」 「あ、もしもし。」 懐かしいようなそんな声がする。こんな声だったっけ。 「電話、した?」 「ああ、え、もしかして俺に掛けてた?」 「そう、だけど。」 「わり、掛け間違えたみたいだ」 「そう、」 じゃあね、そう言おうとした私を遮るように彼が言った。 「久しぶりだよな」 「あ、うん。高校以来。下手すると中学以来かな。」 「あー、は覚えてねえかな。高1の時話したの。」 「挨拶だけね」 「挨拶も立派な会話だろ。・・・は今は、何してんの?」 「もう半年で大学卒業、かな。就職早く決まったし。そっちは?」 「俺も一緒。卒業したら東京に引っ越す。」 「東京のどこ?」 「―ってとこ」 「うちの近所だ」 初めは警戒心を持っていたのに、少しずつ溶けていく。 それにどこか心地良さを感じた。 他にも色々な話をして、神奈川で一人暮らしをしていることや テニスを続けていることとか沢山のことを知った。 同じように私も色々なことを伝えた。 ふと気が付けば時計の短針は1を指していた。 「明日、朝から講義あるからそろそろ寝なきゃ」 「あー、俺も。悪いな」 「こちらこそ。ありがとね、楽しかった」 「・・・あ、あのさ!もしさえ良かったらまた、電話してもいいかな」 「…うん。またご飯でも」 「ああ。じゃあ、おやすみ。」 「おやすみ赤也くん」 ボタンを押して携帯を閉じる。赤也くん、なんて久しぶりに呼んだ。 すごく、平凡な呼び方だ。 携帯を握って少し微笑する顔を指でつつきながら電気を消した。 2011.10.1 |