ぱしん、と張った高い音がする。目の前の女子が肩で息をしながら左手を上げていた。 ―――――ああ、殴られたんだ。 事実を理解するまでに時間がかかった。口内に生暖かいものが流れる。 鉄の味がして、顔を歪ませる。見えない液体がじわりと口内に広がった。 それが血か唾液かは分からなかった。 「聞いてんの!?話しかけられたからって調子に乗らないでよ!!」 目の前の女子が金切り声で叫ぶ。私らしくない。どうしてこんな私と同じ<女子相手に殴られているのだろう。案外痛かった。そもそもの原因はあいつだ、仁王雅治。何かと私に話しかけてくる詐欺師。というのは可哀想かもしれないが関係ない。自由人で異様なほど女子に人気があるテニス部の レギュラー。のんびりと考えていると頭の中でまた金切り声が響いた。 「仁王君があんたなんかにっ!釣り合うわけ無いんだからっ!」 「・・・・・・・・・はあ。」 思わずため息が零れる。ここまで仁王に依存する女が居ただなんて全く知 らなかった。 「その態度が気に入らないって・・・!」 また片手を振り 上げて、私は思わず目を閉じた。 「暴力はやめんしゃい。」 飄々と仁王が現れた。私の顔を目指して飛んできた手が仁王の手の中にすっぽり 収まる。目の前の彼女の顔は青ざめていた。 「なにこれ、ヒーロー気取り。」 「探し回っとったんでな。」 「仁王のおかげで殴られた。」 ここ、と口元を指差した。 「それはすまんかった。痛そうやの、よしよし。」 ゆらゆら歩いて私の前に立つ。見せ付ける様にして。ちらり、と視線を送ってら私の口元を舐めた。 小声で呟く。「きもい 」 全く聞こえていない振りをしてくるっと振り向くと女子生徒A(今名づけた) と向かい合った。 「おー、これがあの無愛想でいっつもプンスカしとるを殴ったやつかー」 「それ何? 馬鹿にしてるわけ?あんたも殴られればいいのに。ていうか殴 られる前にやめたほうが良いんじゃない。」 「そーじゃなー。より目が怖いの。あー怖い怖い。」 おどけた様子で怯える真似をする。正直笑える。笑いをこらえるのが必死だった。 「・・・帰る。」 「待ちんしゃい。送ってやるぜよ。」 仁王とことの流れについて行けていない女子生徒Aに背を向けて歩き出した。 「次、」 「っえ、」 「に何かしたらお前さんをタダじゃおかん。」 仁王の言葉が聞こえない振りをした。唇はもう既に乾いていた。 鉄の味などしない。仁王が私の前に立った。 振り向いてにやりと笑うから、私も笑った。 2011,8,3 |