ドアはいつでも開くようにしてある。鍵もには持たせてあるし、何も不便はない。鍵を締める意味がない。 がいるとき以外は。 時間を邪魔されたくない。誰にも、何にも。郵便だとかソファーに横たわって毎日そんなことを考えている。は優しいから俺のことを一番に考えるだろう。けどそうじゃない。でもそれでいい。いつでも俺がの足を引っ張っているのだから。 でも、それでも俺の領域から出て欲しくないから俺はこうしてただ待つしか出来ない。 ただバイトを少しこなして、の帰りを待つだけ。これからのことを考える余裕も持てない。不甲斐ないのは分かっている。頭を抱えて溜息をひとつだけ零して起き上がった。かつんと鳴り響く外のヒールの音に反応して、思いきりドアを開いた。 「雅治ただいま。」 ふわりと微笑んだの手を引いて、俺も笑った。 「おかえり、。」 「ご飯ね、今日はオムライスかカレーにしようと思うの。」 ほら、と片手に持ったスーパーの袋を俺に見せた。端から見ればただの恋人同士だろう。ドアを締めて、鍵を掛けた。丁寧にチェーンまでつけて。これは監禁だとかそんな大それたものじゃない。ただ俺がに依存してしまっただけで、ただ俺が見ていた世界の汚い部分をから切り離していたい願望の表れだ。こんなドアひとつで遮ることなど出来るわけないのに。もう癖になってしまった。 「結局どっちにするんじゃ。」 「うーん、雅治はどっちが食べたい?」 「俺は何でもいいぜよ。」 キッチンに向かって立つは慣れた手つきで料理の支度を始めた。隣に並んでスーパーの袋から野菜を取り出した。 「オムライスにしようかな。卵食べたいもん。」 「手伝う。」 そう言えばまたふわりと笑った。まな板と包丁を出して洗った野菜を渡せば、器用に切っていく。前を見ることを恐れている。未来に何があるか知らないから。がそこにいるか分からないから。だからもう知っている過去ばかりを振り返る。毎日が同じ進み方じゃないと気が済まない。に依存しすぎなのは分かっている。分かっていても、が居なければ俺の生きる意味はない。 「雅治は今日なにしたの?」 「朝起きたじゃろ、飯食って、バイトは休みじゃったし寝た。」 「ほんと毎日変わんないねー。つまらなくないの?」 「がいる。」 「そっかそっか。」 が包丁から手を離したと同時に小さな背中を包み込んだ。 すべての意味があなたになるように。 俺はそうして生きるしか術がないのだ。 過去を引きずる僕は未来しか見ないあなたを卑怯な手で鎖に繋いではあなたの自由を奪ってるかな? 留まるということしか、俺には選択出来ないのだから仕方がない。 「。どこにも行くな。」 そうして今日も留まることを選ぶのだ。 Stay. 2012.4.22 |