初めて見た。凄く好きなタイプで、一発でどっかーんっていう一目惚れをした。 一目惚れは長続きせん、気の迷いじゃっておばあちゃんが言ってたし、私だって一目惚れなんかしないはずだった。 でもあの色素の薄い髪に、長い睫毛とか、左腕に巻いた包帯まで全部全部どっかーんって私を惹きつける。 名前は知らない人。 あ、今隣通った。「白石ぃー!」 あの人、白石って言うんだ。 振り向いた。かっこいい。容姿だけじゃなくて、雰囲気とか全部。なんだ、謙也が走ってきたんだ。 「どしたん謙也?」 「こら、どしたんとちゃうやろ。白石今日日直やで!」 「・・・・・・あ。」 「白石が忘れるなんて珍しいな。」 「・・・・・・そうか?悪いな謙也。すぐ行くわ!」 聞いたか聞いてないのか、謙也はそのまま走っていっちゃったけど。 完璧だって友達が言ってたあの人に抜けてるところがあるなんて!ちょっと可愛くて笑っちゃった。 「ふふっ。」 声が出て、しまったと思った瞬間目が合った。 「・・・・・・・・・・もしかして、聞こえてた?」 白石くんが話しかけてきた、わ、私に。 「うん、だって謙也の声大きかったもん。」 「うわ、恥ずかしいなあ・・・!」 恥ずかしそうに頭をかいて、白石くんが言う。 「謙也のせいや・・・」 ちょっぴり顔を赤らめる白石くんがなんかずるいと思えた。 私なんて、こうして白石くんと話すだけでもどきどきして、体中がなんていうのかな、こう、タコさんウインナーみたいになりそうだっていうのに。 白石くんは何も知らないからいい。そんなの、ずるい。 だけど気持ちを伝えるなんて、できるわけないんだから、こんなこと思ってもしょうがない。 「行かなくていいの?日直なんでしょ?」 「あ、そうやった!ほな、またなさん!」 「またね、白石くん」 慌てて駆けていく後ろ姿に小さく手を振ると、またいつもの自分に戻った気がして、どこか寂しくなった。今度はもっと話せたらいいな。 ―――――――――――またな、さん。 さん?どうして私の名前を知ってるんだろう。って、言ったことないのに。 今日はじめて、話したのに。 やっぱり、白石くんはずるい。 一目惚れとか、そういう類のモンは俺とは無関係やと思ってた。せやけど、この前初めて ビビッとくるような一目惚れをしてしまった。一目惚れは良うないって姉も妹も言うとったから、 俺もする気はなかったんやけど、見かける度にこう、なんというか惹かれていく感じ。 どことなく落ち着いたところと、友達とおるときにだけ見せるかわいい笑顔とかめっちゃ可愛い。 。それが、最近気になる子の名前やと謙也が教えてくれた。 どうやら謙也とさんの親が仲良くてよく話すらしい。あ、さんや。可愛いなあ。 でもこれって俺の損に思えてくる。別に付き合ってるわけじゃないんやし言えんけどさんは俺のこと知らんねんもん。 ずるい。俺だけこんな好きとか、ずるいわ。損得の問題じゃないってことぐらいわかってるけど。 「白石ぃー!」騒がしいなあ。・・・・・謙也か。 「どしたん謙也?」 「こら、どしたんとちゃうやろ。白石今日日直やで!」 「・・・・・・あ。」 うわ、俺としたことが。先生絶対怒ってるわ。 「白石が忘れるなんて珍しいな。」 「・・・・・・そうか?悪いな謙也。すぐ行くわ!」 走っていったで、絶対聞いてへんわ。さんが気になって、ちらっと見る。うわ、今、目あったかもしれへん。 またちらっと見る。 めっちゃ見てた!めっちゃこっち見てた! 「ふふっ。」笑われた。視線がかち合う。目が逸らせずに、恐る恐る聞く。 「・・・・・・・・・・もしかして、聞こえてた?」はじめて話しかけてしまった。しかもこの距離の近さに体温が上がる。 さんby教室の窓と俺in廊下のこの距離10m。ちか、ち、近い・・・! 「うわ、恥ずかしいなあ・・・!」さんがめっちゃ見てる。目が合ってしまうなんて恥ずかしすぎるわ・・・! 「うん、だって謙也の声大きかったもん。」 こうして話せるのは謙也のおかげやろうけど、感謝すべきか恨むべきか分からへん。とりあえず、ありがとう。 でもやっぱり恥ずかしいところを見られてしまった。「謙也のせいや・・・」 目を向けるとさんが赤くなっているような気がした。・・・・・あかんあかん。幻覚。 「行かなくていいの?日直なんでしょ?」・・・・忘れとった。このままでは謙也+先生に怒られてしまう。 「またな、さん!」 「またね、白石くん」 ひらひらと手を振るさんに手を振り返して教室へと突っ走る。 またね、白石くん、か。白石くんやって!さんは俺のこと知っててくれた! っしゃあ!とガッツポーズをする。謙也に不審がられたけど無視して黒板をガシガシ消していく。 いつかは、って呼べるようになりたいなあ、なんて あかんかな? 2011,8,3 |