どくどくと心臓の鼓動が聞こえる。不思議だ。体の中に存在するのに体外にある耳にはちゃんと聞こえる。俺に響く音と、一定のリズムで部屋に鳴り響く機械音が頭の中で重なった。うっすらと瞼を開くと光がいっぱいに射し込んだ。眩しさに目を細める。機械音と鼓動が耳に届いた。 「精市…?」 目線だけを送るとドアの前に花瓶と花を持ったがいた。 「よかった…!目が醒めたんだね」 花瓶をテーブルの上に置いて俺に駆け寄る。 「…おはよう、」 手術を終えて数日しか経っていない今の俺にの手を握って抱き締める力など微塵も無かった。自分の無力さに苦笑しか出来ない俺の左手をは両手で握って顔を綻ばせた。柔らかく握った。握り返そうとも指先が震えるような動きしか出来なかった。 「無理しなくていいんだよ」 震える指先のひとつひとつに触れてが言う。 「ごめん」 「何で謝るの」 「何となく」 「元気になったらいっぱい遊びに行きたい」 「俺も行きたい」 「手もいっぱい繋ぎたい」 「俺も」 「それに、もっとずっと一緒にいたい」 「俺も」 が微笑んだから俺もつられて微笑んだ。 「テニスやりたい」 「私はテニス見たい」 いっぱいやることが出来たね、そう言ってが俺の手を強く握った。触れた掌から温かい体温が伝わった。俺の手はこんなに冷たいのか。の手を離さないようにぎこちなく動く手を精一杯動かして掴んだ。と目が合う。 「リハビリ、大変だけど頑張るよ」 「一緒に頑張ろうね」 私も精市の分も綺麗にノートとるよ、とが笑った。手が離れないように、掌を無い力を使って握った。 2012.2.13 |