先輩は危なっかしい。見てるこっちがどきどきさせられてほんまに困る。 先輩にタオルくださいなんて言うもんなら、必ずと言っていいほど転ぶ。 挙句の果てには、タオル落として砂付ける。それも一枚二枚や無くて全部を。 何でこんな人がテニス部のマネージャーなんかなれたんやろう。 マネージャってそれなりに体力があって、笑顔で、こけへん人がやるべきや。 先輩は、一番最後以外は合格やのにな。一日三回は絶対こけてる。 「財前くん、はいタオル!」 「・・・・どーも」 「今転ばなかったことにびっくりしたでしょ。」 「先輩がこけすぎやからあかんねん。」 「今日は一回も転んでませんー!」 珍しくこけんかった先輩にびっくりした。先輩って常にこける人やし。 今日は、台風やな。ぼそっと呟くと白石部長に聞こえてたみたいで、部長が 今日の降水確率、午後から80%やねんで。と笑った。 やっぱり、先輩がいつもと違う日はなんかあるんやわ。 傘、持って来といて良かった。 白石部長が、財前にやけてるできもい。と心底怪しいものを見る目で俺を見た。 練習が終わって、着替え始めたときに部室の外からぽつぽつと地面に打ちつける 音がした。やっぱり、雨降ったなあと謙也さんが呟く。先輩、多分外やから 寒いんちゃうかな、と思ったけど上がテニスのウェアで下が体操服という恥ずか しい格好では先輩の様子を見に行けるわけがない。 「て今外におるんちゃうん?」 着替え終えた謙也さんが独り言みたいに言った。 「今外におるとかアホやん。さすがのでもないやろ。」 一氏先輩がだるそうに答えた。 「財前もう帰るんやろ、見て来てくれん?」 白石部長が笑って俺に言った。ちょうど着替えが終わったのを知っとって、わざと こういうことを言ってくるからきもい。せやからこの人苦手やねん。 断る訳ないって知ってるくせに。アホちゃうんこの人。 「別に、構いませんけど。」 瞬間で白石部長の顔がものすごい笑顔になった。にたにた笑う。まさか、とは 思ってたけど、白石部長だけやなくてラブルスも俺を見てにやにや笑った。 謙也さんだけ、鈍いみたいやから何も言わんと黙って着替えとった。 「「「いってらっしゃい」」」 にやにや笑っとる先輩達にぺこっと頭下げて部室を出た。 外は大雨で、地面から跳ね返る雨が靴をあっという間に濡らした。 先輩、大きい声で呼んだつもりやったのに雨の音で掻き消された。 目の前に丸くなった先輩を見つけて、近寄る。 「先輩、風邪引きますよ」びしょ濡れになった先輩の頭にタオルを掛けた。 「あ、財前くん。」先輩が顔を上げる。 「何してるんですか。」 「傘、忘れたから。」 「あほやん」 「だってさ、仕方ないよ!天気予報ヨシズミだったから」 当たらへん天気予報のことを、先輩はヨシズミって呼ぶ。 ヨシズミがちょっと可哀想やと思った。 「先輩に風邪引いてもらったら困るねん」 もうちょっと優しく言えんのか俺は。自分の天邪鬼なところが憎らしい。 先輩はというと、また丸くなってごめんね、と俺に謝った。 別に謝ってほしい訳じゃないんやってば。 「ごめんね、財前くん」 顔を上げずに先輩が言った。 「転んじゃって、ごめんね。タオル汚してごめん。迷惑ばっかりかけて ごめんね。こんな先輩で、ごめんなさい」 先輩が俯いて丸くなったまま、何も言わなくなった。 あほや、素直に言えん俺も。この人も。 先輩の頭にかかったタオルを押さえつけて、隣に座った。 「あんな、先輩。風邪引くなっていうのは先輩にマネージャー業を してほしいからちゃうねん」 「・・・・・・じゃあ、なに?」 先輩が首を少しあげた。でも、顔は見せてくれへん。 「先輩に会えへんのは俺が寂しい」 「・・なん、で寂しく、なるの?」 やっぱり、あほや。この先輩大馬鹿や。 こんだけ言わへんかったらわからんとか、あほ。 先輩が好きや 先輩が赤い顔をあげて、俺を見る。 目がおっきく開いとって吃驚しとった。 「・・・ばか財前。ばか。」 「さんも充分あほや。気付いてくれへんねんから」 「・・・財前くんも気付かなかったくせに。ばか。」 「気付かへんって、なにを」 「わたしも財前くんがすき」 「なあ、白石。もう出てええかな?」 「あかんユウジ・・・!まだ耐えるんや・・・!」 「蔵リン楽しそうやね〜」 「白石もユウジも、小春も今度財前のこと冷やかしたらあかんで」 「「「なっ・・・!謙也知っとったんか・・・・!」」」 「当たり前やろ、後輩でダブルスやねんから。」 「謙也が一番冷やかしそうやのに・・・!」 「白石、悪趣味。分かってても黙っとくんが先輩やろ。 ほな俺、帰るわ。」 「「「なんか謙也大人になったなあ」」」 2011.8.14 |